【海外動向・注意喚起】台湾で“合法風ドラッグ”として流通拡大 ─ 麻酔薬「エトミデート(Etomidate)」の乱用、急速に深刻化
2024年、台湾において新興向精神薬「エトミデート(Etomidate)」の乱用が社会問題化しています。
エトミデートは本来、医療現場で用いられる静脈麻酔薬ですが、近年では電子タバコ用リキッドに添加され、“合法大麻”を装って若者層に販売されるケースが急増しています。
現地では「上頭煙(ハイになるタバコ)」「睡眠煙彈(スリープカートリッジ)」「喪屍煙彈(ゾンビカートリッジ)」「合法替代大麻(合法大麻)」などと俗称され、SNSやナイトクラブを通じて流通。見た目や売り文句から“安全・合法”と誤認されやすく、実態としては違法薬物としてのリスクが極めて高い物質です。
台湾当局の対応と密輸事件
2024年10月、台湾南部・高雄市で史上最大級とされるエトミデート密輸事件が摘発されました。逮捕された男は、約140万円(30万台湾元)の報酬で密輸を請け負い、計135キロ(末端価格約126億円相当)のエトミデートを「化学品」と偽って航空貨物として申告。ドラム缶の底に27袋に分けて隠匿していた手口からも、組織的かつ高度な計画性が見て取れます。
警察発表によれば、同年5月頃から薬物運搬組織と接触していた形跡があり、台湾の法執行機関は密輸・拡散経路の全容解明を進めています。
社会的影響と健康被害
台湾では今年に入り、若年層を中心とした乱用が急増。エトミデートの乱用により、以下のような重篤な健康被害が報告されています:
- 手や全身の震え、強いめまい
- 永続的な神経損傷
- 呼吸抑制による意識消失、死亡例
- 使用者による交通事故の発生(警察官の殉職も報告)
法規制強化の動き
これを受けて台湾政府は2023年8月、エトミデートを毒品危害防制條例(※日本でいう麻薬及び向精神薬取締法)の「第3級薬物」に初めて指定し、製造・輸送・販売および5g以上の所持を禁止しました。その後の急速な拡散と被害状況を踏まえ、同年11月には「第2級薬物」(大麻やコカインと同等)に格上げする法改正を実施。規制と取締りを強化しています。
本法人よりコメント
本事例は、合法風に偽装された薬物がSNSや電子デバイスを媒介にして若者層に拡散する典型的なパターンであり、日本国内においても決して対岸の火事ではありません。台湾での動向は、今後日本にも波及するリスクを孕んだ“予見的事例であると言えます。
薬物の名称や外観に惑わされず、本質的な薬理作用・依存性・リスクを正確に見極めた上での啓発・防止対策が求められます。特に、薬物乱用防止教育を担う現場の指導者・記者の皆様におかれましては、エトミデートの動向を注視し、事前防止の体制構築に役立てていただければ幸いです。
参考資料
- フォーカス台湾(2024年11月27日):「130億円相当の薬物密輸で男逮捕 台湾・高雄 若者の乱用広がる『エトミデート』」
- Yahoo!ニュース(2024年11月27日):https://news.yahoo.co.jp/articles/7974f7d351bd535ed997875c2504a64a527d39b5
- 内政部警政署/橋頭地方検察署 発表資料